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旭川地方裁判所 昭和22年(ワ)68号 判決 1947年9月01日

原告

旭川市四條通二十一丁目左十號 長野德一 外三十五名

訴訟代理人辯護士

板井一治

被告

國 代表者 北海道知事 田中敏文

指定代表者

北海道知事 福岡武二 外二名

訴訟代理人辯護士

齋藤志雄 外一名

主文

原告の請求は、これを棄却する。

訴訟費用は、原告等の負擔とする。

請求の趣旨

別紙目録記載の土地につき

(一) 原告淸水六造、同村上格市の所有地に對し昭和二十二年五月二十六日爲した買收は、之を取消すこと。

(二) 其の餘の原告等の所有地に對しては買收してはならぬ。

(三) 訴訟費用は、被告の負擔とする。

請求原因

(一) 被告は農地調整法第十七條の二第三項及び同法施行令第四十六條の規定に基いて旭川市を「旭川市旭川地區」と「旭川市旭新地區」の二地區に分け、各々の地區に農地委員會を置き、昭和二十一年一月八日北海道告示第一六號を以てその旨告示した。旭川市内に農地を所有する原告等は、その結果自作農創設特別措置法第四十八條により所主不在地主と目されるに至り、原告淸水六藏同村上格市は、その所有に係る別紙目録記載の農地を買收され、昭和二十二年六月二十六日買收令書を交付され、その餘の原告らの所有に係る別紙目録記載の農地は、近く買收されることが必定である。

然し、旭川市は、二地區に分つことについて前記法條所定の要件を具備していない。即ち旭川市は、面積僅か三十二平方粁で「著しく大」には該らず、その他「特別の事情」或は「特別の必要あり」と目すべき事實もない。右のように二地區に分けたのは、これによつて多數の不在地主を造成し得ることに着目した農民組合の運動に聽從したことによるものである。

然らば旭川市を二地區に分けたのは、農地調整法に違反する不當な行政行爲であり、ひいては基本的人權たる原告等の土地所有權を侵害するものであるから憲法の條規により無效である。

(二) 次に右二地區設定の無效を前提とし、別紙目録記載中八反歩以上の小作農地を所有する原告等において主張するのであるが、北海道農地委員會は、昭和二十二年五月一日自作農創設特別措置法第三條第一項第二號、同條第三項に基いて農地所有者が其の住所のある市町村の區域内において所有し得る、範圍を旭川市においては八反歩と定め、同年六月十一日中央農地委員會の承認を得、同月二十五日北海道告示第四百四十號を以てその旨告示した。

然るに右面積は、同法第三條第三項第二號の保有面積四町歩の僅か二割に過ぎず、同法の精神に反するものといふべく、基本的人權たる原告等の土地所有權を侵害するものであるから、これ又憲法に違反し無効である。

(三) 仍て右二地區の設定、保有面積の決定の二つの行政處分の取消を求めると共に原告淸水六藏同村上格市は、前記買收の取消を求め、其の餘の原告は、前記土地に對する買收の禁止を求めるため本訴に及ぶものである。

(四) 然し右二地區の設定及び保有面積の決定の取消の效力は、訴訟の當事者以外に及ばないのであるから、その取消は、判決理由中でなせば足り、主文で取消す要はないと解するから、請求の趣旨には掲げない。

答辯省略

判決理由

(一) 「仍て先づ旭川市を二地區に分けた行政處分の取消を求むる請求の當否につき按ずるに、新憲法及び裁判所法の施行せられた昭和二十二年五月三日以降の行政處分について裁判所に訴を提起できることは論を俟たないところであるが新憲法施行前の行政處分については從前行政訴訟を提起し又は通常裁判所に訴を提起することを許されて居た場合に限り同法施行後も裁判所に訴を提起することができるのであつて、然らざる場合は法の不遡及の觀點から訴を提起することは許されないものと解するを相當とする。然るに旭川市を二地區に分けたのは同法實施前であつてこの種の行政處分については從前行政訴訟及び通常訴訟共に許されて居なかつたのであるから同法施行後も裁判所に訴の提起はできないものというべく、從つて右二地區に分けた行政處分の取消請求は失當である。

(二) 尤も右二地區に分けた行政處分が初から當然無效のものであるならば前記買收の取消並びに買收禁止を求むる請求に關する先決問題として裁判所は其の獨自の見解によりこれを無效として判斷することができるのであるからこの點につき考究するに市町村の區域を二以上の地區に分つことについては農地調整法第十七條の二第三項同法施行令第四十六條第一項において地區に分つ基準の大綱を示し其の認定は大幅に行政廳に委ねてあるのであるが旭川市を二地區に分けたのは元東旭川村から旭川市に合併した地域の一部及び元永出村から合併した新旭川の地域を「旭川市旭新區」とし爾餘の旭川市の地域を「旭川市旭川地區」と定めたのであつてこの地區に分けることについては所定の手續を履踐したのであるから斯る形式上缺くるところのない權限内の行政處分は假令行政官廳に右の基準に關する認定につき不當な點があつたとしても之を以て直に初から當然無效であるということはできない。權限ある官廳によつて取消されない限り有效であるというべきである。

(三) 果して然らば原告淸水六藏同村上格市の兩名の所有農地に關し爲された前記買收處分は其の買收手續自體に瑕疵のない限り有效であることは勿論であつて右手續に缺くる點のたることは同原告等の主張しないところであるから右買收の取消を求むる同原告等の本訴請求は爾餘の爭點につき判斷を俟つ迄もなく失當であるし爾餘の原告等は買收を豫め阻止することはできないのであるから買收の禁止を求むる同原告等の請求も亦爾餘の爭點につき判斷を俟たずして失當なことが明かである。仍て本訴請求は總て棄却すべきものとし訴訟費用の負擔につき民事訴訟法第八十九條を適用し主文の通り判決する。

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